不登校の始まりに、親が最初にしてほしいこと
朝になっても、子どもが布団から出てこない。「お腹が痛い」「頭が痛い」「今日は行きたくない」。最初は体調の問題だと思っていたのに、それが二日、三日と続く。日曜の夜になると表情が曇り、月曜の朝には身体が動かなくなる。学校へ行く時間を過ぎると、少しだけ元気が戻る。そんな我が子を前にして、多くの保護者が同じ不安を抱えています。
「このまま休ませて、本当に大丈夫なのだろうか」
「一度認めたら、ずっと行かなくなるのではないか」
「無理にでも連れて行った方が、この子のためではないか」
「私の育て方が悪かったのだろうか」
今日は、長く教育に携わり、不登校の子どもたちの教室を運営してきた立場から、学校へ行けなくなった最初の時期に、家庭で何を大切にしてほしいかをお伝えします。
最初にしてほしいのは、理由を聞き出すことではありません
子どもが学校へ行けなくなると、親はどうしても理由を知りたくなります。
「学校で何かあったの」
「友達にいじめられているの」
「先生が怖いの」
「勉強についていけないの」
親として当然の気持ちです。原因さえ分かれば手を打てる、と思うからです。
けれども、なぜ行けないのか、子ども自身にも分からないことが少なくありません。友達との関係、先生との相性、勉強への不安、集団生活の疲れ、音や光への敏感さ、失敗への恐れ、うまく言葉にできない息苦しさ。いくつもの事情が少しずつ重なって、最後に心と身体が「もう無理だ」と止まってしまう。そういう子を、私は何人も見てきました。
その状態で理由を何度も尋ねられると、子どもはこう受け取ってしまいます。
「きちんと説明できない自分が悪い」
「親を困らせている」
「行けない理由まで証明しなければいけない」
責めるつもりのない質問が、結果として子どもを追い詰めてしまう。ですから、最初にしてほしいのは、理由を聞き出すことではありません。まずは、こう伝えてあげてください。
はじめに伝えたい言葉
「今日は休んでいいよ」
「理由は、話せるようになってからでいいよ」
「味方だから、一緒に考えよう」
この一言ですべてが解決するわけではありません。それでも、家の中に自分を責めない人がいると分かることは、子どもにとって大きな支えになります。
守るべきなのは、出席よりも親子の信頼関係
子どもが学校を休むと、欠席日数、勉強の遅れ、高校進学、その先の就職と、親の頭には不安が一度に押し寄せます。
しかし、今まさに苦しんでいる子どもに、何年も先の不安をぶつけても受け止めきれません。

「今休んだら、将来困るよ」
「みんな嫌なことがあっても行っている」
「いつまでこんな生活を続けるつもりなの」
どれも、心配しているからこそ出てくる言葉です。けれども子どもの耳には、まったく違う意味で届いてしまいます。
「学校へ行けない自分には価値がない」
「親に迷惑をかけている」
「家にも自分の居場所がない」
学校へ行けなくなったとき、最初に守るべきなのは出席日数ではありません。親子の信頼関係です。「本当につらくなったら、この人には話せる」。子どもがそう思える関係さえ残っていれば、時間はかかっても、自分の気持ちを言葉にし、誰かの助けを受け取れるようになります。
家庭まで安心できない場所になってしまうと、子どもは苦しさを一人で抱え込むしかなくなります。
「行くか、行かないか」だけで朝を始めない
不登校が始まった家庭では、毎朝、同じやり取りが繰り返されます。
「今日は行ける?」
「何時間目からなら行けそう?」
「保健室だけでも行ってみる?」
「校門まで送ろうか?」
もちろん、子どもが自分から「行ってみたい」と言ったときは、その気持ちを応援してください。ただ、毎朝この確認から一日が始まると、子どもは目を覚ました瞬間に決断を迫られることになります。
前の晩には「明日は行く」と思っていても、朝になると身体が動かない。これは約束を破ろうとしているのでも、怠けているのでもありません。頭では行かなければと分かっていても、心と身体がついてこないのです。
そんな朝は、行き先ではなく、その日の状態を尋ねてみてください。
「今日はどんなふうに過ごしたい?」
「何か食べられそう?」
「少し落ち着いてから考えようか」
学校へ行くかどうかを決める前に、今日の調子を一緒に確かめる。それだけで、朝の衝突はずいぶん減ります。
子どもの言葉を、すぐに否定しない
子どもが少しずつ話し始めたとき、大人はすぐに答えを出したくなります。「友達に無視された」と聞けば「気にしすぎじゃない?」、「先生が怖い」と聞けば「そんなに悪い先生ではないよ」、「勉強が分からない」と聞けば「塾に行けば追いつけるよ」。
どれも励ますつもりの言葉です。けれど、子どもが最初に求めているのは正しい答えではなく、「分かってもらえた」という感覚であることがほとんどです。
まずは、気持ちのほうを受け止めてください。
「それはつらかったね」
「怖かったんだね」
「よく毎日がんばっていたね」
事実関係の確認も、解決策を考えることも、その後で構いません。聞くときに気をつけたいのは、尋問にしないことです。すべてを一度に話してもらおうとせず、その日話せる分だけを聞く。途中で黙ってしまったら、「話してくれてありがとう。また話したくなったら聞かせてね」と切り上げてよいのです。
最後まで否定されずに聞いてもらえた経験が、子どもの安心を少しずつ取り戻していきます。
休ませることと、放っておくことは違う
「休ませてあげてください」とお伝えすると、「何もしなくていいのですか」と心配される保護者がいます。そうではありません。休ませることと、放っておくことは違います。
責めずに休ませながら、生活と心身の様子を静かに見守る。例えば、次のような点です。
毎日の暮らしの中で見ておきたいこと
食事が取れているか
夜に眠れているか
昼夜が完全に逆転していないか
頭痛や腹痛、吐き気が続いていないか
家族との会話があるか
好きだったことにも関心を示さなくなっていないか
自分を強く責める言葉が増えていないか
「消えたい」「死にたい」という言葉が出ていないか
自分を傷つける行動がないか
頭痛や腹痛、不眠、食欲の低下が続くときは、小児科やかかりつけ医に相談してください。心の問題に見えても身体の病気が隠れていることがありますし、反対に、身体の不調として現れていても強いストレスが関係している場合があります。
「消えたい」「死にたい」という言葉が出たときは
叱ったり、家庭の中だけの秘密にしたりせず、できるだけ早く医療機関や公的な相談窓口につないでください。自分を傷つける行動が見られるときも同じです。命に危険が迫っていると感じたときは、ためらわず119番・110番へ連絡してください。
学校とのつながりは切らず、親が窓口になる
学校へ行けないからといって、学校との関係をすべて断つ必要はありません。ただ、先生からの電話や家庭訪問が、そのときの子どもには大きな負担になることもあります。
最初の時期は、親が窓口になって構いません。担任の先生には、こんなふうに具体的に伝えてみてください。
- 本人への直接の連絡は、しばらく控えてほしい
- 連絡は、まず保護者にしてほしい
- 宿題や配布物は、無理のない形で届けてほしい
- クラスで何か変化がなかったか確認してほしい
相談できるのは担任の先生だけではありません。養護教諭、スクールカウンセラー、学年主任など、子どもが話しやすい人を一緒に探しておくと、その後の選択肢が広がります。
そして、学校へ戻ることだけを急がないでください。別室登校、短時間登校、教育支援センター、フリースクール、オンライン学習と、道は一つではありません。
文部科学省も、不登校支援は学校へ登校するという結果のみを目標にするのではなく、子どもが自らの進路を考え、社会的に自立していくことを目指す必要があるとしています。あわせて、不登校の時期が、休養や自分を見つめ直す期間として積極的な意味を持つ場合があることも示されています。
学校に戻ることは選択肢の一つです。それだけが、子どもの回復ではありません。
親も、一人で抱え込まないでください
子どもが学校へ行けなくなると、親はまず自分を責めます。周囲から「甘やかしているのではないか」「無理にでも行かせるべきだ」と言われて傷つくこともありますし、夫婦の間で考え方が違い、家庭の中で対立が起きることもあります。
けれども、不登校は親一人の責任ではありませんし、親一人の力で解決しなければならない問題でもありません。学校、教育委員会の相談窓口、スクールカウンセラー、医療機関、自治体の教育支援センター、民間のフリースクール。相談できる場所は、思っているより多くあります。
子どもを連れて行けなくても、まずは保護者だけで相談して構いません。誰かに話して不安が整理されると、家庭の空気が少し軽くなります。親の表情がやわらぐと、子どもも安心します。
保護者自身が眠れない、食べられない、仕事が手につかないという状態になったときも、我慢せずに医療機関や相談窓口を使ってください。子どもを支えるためには、支える側にも支えが必要です。
最初の目標は「明日、学校へ行くこと」ではない
学校へ行けなくなった子どもにとって、最初の目標は、翌日から登校できるようになることではありません。

- 安心して眠れること
- 食事が取れること
- 家の中で少し笑えること
- 好きだったことに、もう一度興味を持てること
- 家族以外の誰かと、少し話してみようと思えること
こうした日常を取り戻すことが、最初の一歩です。
そして、回復は一直線には進みません。元気になったように見えた翌日に、また部屋から出られなくなる。一度学校へ行けても、次の日は行けない。そのたびに「振り出しに戻った」と考えないでください。話せた経験、外へ出られた経験、受け入れてもらえた経験は、目に見えなくても子どもの中に残っています。
大切なのは、ほかの子と比べることではなく、その子の昨日と今日を比べることです。
子どもに、こう伝えてほしい
私は、学校へ行けなくなった子どもに、保護者からこんな言葉を届けてほしいと思っています。
ご家庭で伝えてほしい言葉
「学校へ行けないことで、あなたの価値は変わらない」
「今すぐ答えを出さなくていい」
「勉強する場所は、学校だけではない」
「困ったときは、一緒に考える」
「あなたの人生には、まだたくさんの道がある」
子どもは、学校へ行けない自分を誰よりも責めています。何も考えずに遊んでいるように見えても、心の中では「明日は行かなければ」「このままではいけない」と苦しんでいることがあります。だからこそ、親まで一緒になって追い詰めないでほしいのです。
親にしかできないことがあります。それは、問題をすぐに解決することではありません。子どもが一番苦しい時期に、「あなたを見捨てない」「あなたの味方でいる」と伝え続けることです。
学校へ行けない日も、人生は続いている
学校へ行けない時間は、何も生まれない空白ではありません。しっかり休む時間になることもあれば、自分を見つめ直す時間になることも、新しい学び方や居場所に出会う時間になることもあります。
学校へ行けなくなったからといって、子どもの未来がなくなるわけではありません。道が一本、見えなくなっただけです。人生には、ほかにも道があります。
私たちセントラル・パークは、学校でも家庭でもない第三の居場所として、子どもと保護者が次の道を探す時間に寄り添いたいと考えています。無理に学校へ戻すための場所ではありません。まず安心して過ごし、学習や体験、人とのつながりを通して、「少しやってみよう」と思える気持ちを取り戻していく場所です。
子どもが学校へ行けなくなったとき、親が最初にしてほしいこと。それは、無理に動かすことでも、理由を問い詰めることでもありません。いったん立ち止まり、その子の苦しさを受け止め、「大丈夫。一緒に考えよう」と伝えることです。
今日学校へ行けなくても、人生まで止まったわけではありません。子どもにも保護者にも、何度でも新しい出発点があります。焦らなくて大丈夫です。一人で抱え込まなくて大丈夫です。
子どもの未来は、今、学校へ行けているかどうかだけでは決まりません。私たちは、その子がいつか自分の未来を楽しみにして、「早く大人になりたい」と思える日が来ることを信じています。
人生には、いくつもの道があります。
そして、人生は楽しい。

株式会社JCP 創業者
中園 潔
浜学園で数学科講師を10年務めたのち、家庭教師派遣事業を創業。研修事業、インターナショナルスクール校長、外国語講師の派遣事業などを経て、児童発達支援・放課後等デイサービス「セントラル・パーク」を立ち上げる。「人生は楽しい」を理念に、教育と福祉をつなぐ居場所を全国へ広げている。